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2025/08/10 07:00

今回は、「そもそも抗生物質とは何か?」、「抗生物質不使用だと何が良いのか?」という点について明記したいと思います。

そもそも、抗生物質使用の目的とは?

抗生物質は、主に細菌による感染症の予防と治療のために使用されます。例えば、人間においては、肺炎、尿路感染症、皮膚の感染症、食中毒などに効果があります。

家畜業(鶏、豚、牛など)では、動物が感染症にかかるのを防ぐために予防的に抗生物質を与えることが一般的です。実はミツバチも家畜業に分類されるため、同じように感染症予防のために抗生物質が与えられることがあります。

ミツバチにおいては、主にアメリカ腐蛆病(アメリカふそびょう)という感染症の対策として使用されることが多いです。アメリカ腐蛆病は、ミツバチの幼虫に感染する細菌性の病気で、Paenibacillus larvae という細菌が原因です。この病気はミツバチの巣内で感染が広がり、幼虫が死滅し、最終的に群れ全体に大きな影響を与えます。

日本では、養蜂家はミツバチの飼育届けを出している場合、必ず毎年保健所での検査が行われ、病気が見つかった場合には巣や巣箱を焼却処分しなければなりません。対策が遅れると、蜂場全体のミツバチを失うことになります。

また、ミツバチは豚や鶏のように柵で囲むことができないため、周辺地域(約2km程度)への飛来と、他の養蜂家との往来により感染リスクも高まります。そのため、養蜂家同士で場所の取り決めをし、腐蛆病を蔓延させないよう努めています。私たち養蜂家にとって、腐蛆病を広げないことは使命です。

そのため、養蜂家はミツバチの状態を見て、適切に抗生物質を使用することが日本では認められています。

養紡屋が抗生物質を使用しない理由

抗生物質は確かに感染症に対して有効な薬ですが、長期的な使用により、細菌が抗生物質に耐性を持つようになり、治療が困難になる事例が増えています。耐性菌の問題は、過剰使用によって悪化すると言われています。

WHOや農林水産省は、2015年から抗生物質使用による耐性菌リスクに警鐘を鳴らしており、農林水産省のHPには次のように記されています。

「動物の健康を維持し、良質な畜産物の安定供給のために抗菌剤の使用は不可欠。しかし、薬剤耐性菌の発生は動物の治療を困難にし、食品を通じて人の感染症治療を困難にする恐れがある。」

日本でも2016年にはアクションプランが策定され、ペットや家畜に使用される抗生物質で人間にリスクをもたらすものは現在使用が禁止されています。農林水産省は「抗菌剤の慎重使用」を徹底するよう求めています。

具体的には次のことが明記されています。

  • 飼養衛生管理の徹底やワクチンの使用により感染症を減らし、抗菌剤の使用機会を減らす。

  • 抗菌剤の使用を真に必要な場合に限定する。

つまり、抗生物質を使用し続けると耐性菌を持ったミツバチだけが存続し、最終的には抗生物質が効かない蜂だけが残る可能性があります。それはミツバチの全滅を意味し、養蜂業界のみならず、農作物の受粉に使われるミツバチを利用する農業全体、ひいては日本全体の問題です。

そうならない未来もあるかもしれませんが、養蜂業界全体が同じ道を歩むのではなく、さまざまな方法で取り組む養蜂家がいることでリスク分散となり、持続可能な養蜂を実現できると信じています。

目的は持続可能な養蜂

ミツバチの抗生物質不使用飼育は、私たちが掲げる「100年後の子供達も安心してはちみつが食べられる環境づくり」への大切な一歩です。

ニュージーランドでの実績

養蜂大国ニュージーランドでは、ミツバチへの抗生物質投与(予防・治療目的)は法的に禁止されています。これは1969年制定の「Apiaries Act」に基づいており、腐蛆病の予防や治療のために抗生物質を使用することは違法です。そのため、養蜂家は抗生物質に頼らず、別の方法で腐蛆病の管理を行っています。

腐蛆病が確認された巣は即座に焼却処分され、感染拡大を防ぐために厳格な隔離措置が取られます。毎年、全ての巣箱の登録と病気の報告が義務付けられており、これにより全国規模で監視と迅速な対応が可能となっています。

抗生物質を使用しない腐蛆病管理は長期的に見て効果的であり、1991年から1998年の間に腐蛆病の発生率が平均12%減少し、最終的には0.38%にまで低下したとのデータがあります。

ニュージーランド養蜂業界は、ミツバチの福祉や環境への配慮を重視した飼育方法を推進し、持続可能な養蜂を実現しています。

養紡屋の取り組み

私たち養紡屋も、抗生物質に頼らない飼育方法を実現しています。独立当初から「抗生物質を使わない」という決意のもと、養蜂を行っていますが、スタート時に購入できた種蜂は抗生物質が使用されてきたミツバチでした。そのため、最初の5年間は本当に腐蛆病に苦しみ、100群購入したミツバチのうち7割以上を焼却処分しました。残った群から増やしたり、また減ったりを繰り返しながら、徐々に腐蛆病の発生がほとんどなくなりました

養蜂家 塩見はその時の事を地獄のようだったといいます。毎日積み上げていたものが、突如ひっくり返される。精神的にも金銭的にも苦しかった時期を乗り超えて今があります。

抗生物質使用に関する誤解

しかしがら、「抗生物質不使用のはちみつ=美味しい」「抗生物質不使用のはちみつ=品質が良い」という認識は誤解です。真面目に取り組む養蜂家にとって、これは解せない認識であり、品質に関してはどちらにも優劣はありません

日本で使用される農薬や抗生物質は、厳しい基準のもとで選ばれており、使用方法についても明確に指導されています。また、抗生物質使用時には、採蜜前に徹底的に掃除採蜜を行い、基準に従って管理されています。

例えば、オーガニック農業でも農薬不使用が理想とされていますが、突然全国の農家が無農薬に切り替えた場合、農産物の価格が急騰し、消費者にとっては大きな困難を伴うでしょう。養蜂においても同様に、急激な変更は生産量の減少や影響が出てしまう恐れがあります。

日本の養蜂を守りたい

ここかららは、養蜂家の妻となった私の個人的な思いですが、養蜂は本当に生半可な気持ちでは続けられない大変な仕事であり、人々の食を支える尊いお仕事だと思っています。

養蜂という仕事は様々な解決が難しい課題をかかえています。この事は、また長くなってしまうので追々書きたいと思いますが、おこがましくも、私は全国の養蜂家を守りたいと年々感じるようになってきました。ミツバチを生業として選んだ人たちを本当にリスペクトしています。 「明日からあなたはミツバチのお世話をして下さい」と言われて、「はい」と即答できる人は何人いるでしょうか?

 今回の記事でお伝えしたかったのは、抗生物質不使用を我々が謳っている事の真意、使用有無に関わらず、信頼できる養蜂家さんから購入したはちみつは素晴らしい!という事です。

 様々な情報が錯綜する中で、疑心暗鬼になってしまう気持ちも分かりますが、一生懸命取り組んでいる養蜂家さんや農家さんへ、少しでも気持ちを寄せて頂ければ幸いです。